佐野まいけるのイカ解剖ログ

趣味で解剖したイカの記録を載せていきます。

ミミイカ_オス_成熟度3a_EM-210420-002

基本情報

標準和名:ミミイカ
学名:Euprymna morsei(Verrill,1881)
雌雄:オス
成熟度:3a
体重:6.8g
体長:5.5cm

ID:EM-210420-002
解剖日:2021/4/20
入手日:2021/4/10
入手方法:採集
産地:関東
状態:

解剖雑記

眩しくて目を細めるミミイカ
前回、メスの解剖記録で書いた通り、この個体も以前我が家で飼っていた個体。メスより少し大きくて、餌のエビを1度に2匹抱え込むほど食欲旺盛だった。しかし、どの部分を切り取ってみても美しいイカだ。

今回は最後の方にニヨリミミイカとの見分けについて詳しく書いたので、気になる人は「味見と同定」から読むと良いだろう。

全体

死んでしまうと、紫色だった体色はすっかり白くなってしまう。それでもオーロラっぽい光沢は残っている。発光しているみたい。

外套膜後端の丸いところを見ると、メスでは黄色かった部分が薄緑色だ。精巣があるあたりだと思われるが、緑色の精巣なのかしら。楽しみ。

左第Ⅰ腕だけぽってりしていて、どうも交接腕っぽい。あとで詳しく見てみよう。

開腹

小さな体によくこんなに色んな臓器が詰まっているよな。

図示するのが面倒なので心の眼で見てほしいのだが、エラ心臓がうっすら見える。鍛えられていないと見つけられないと思う。

心臓・エラ心臓・エラ

メスの解剖の際に見つけられなかった循環器を、今回は取り出すことに成功。めちゃめちゃ小さくて柔らかいのに、我ながらよく取り出せたと思う。この個体は腕まで含めて5.5cmほどしかなかったから、エラの長さは多分1cmないはずだ。

精巣・精莢嚢など

ただ腹を開いた状態からさらに、内臓を覆っている薄い膜を取り除くと生殖腺がよく見えてきた。

拡大してみるとやはりオスで間違いないようだ。白い精子塊が詰まった細長い精莢がたくさん見える。そのうちの一部が薄緑色になっていた。なぜなのかは全然わからない。綺麗な色だね。

精莢

精莢を拡大すると中のばね状の発射機構がよく見える。しかしつつき方が悪かったのか発射はしなかった。

精巣は端の方にちょろっとついていた。

発光器・墨汁嚢

発光器の詳細については前回メスの記録に書いた通り。裏表が撮れたので載せておく。

しかし実際に光っているところを見たことがない。ホタルイカの皮膚発光器みたいにぼんやり光るのかな。

墨汁嚢・発光器(腹側)

墨汁嚢・発光器(背側)

肝臓

この可愛いV字形は肝臓。なんとなくだが、タコみを感じる。この肝臓がしっかり身にくいこんでいて外れない感じ。

腕・交接腕

この可愛らしい腕で胴に砂をよいしょよいしょとかけて埋まる様子は悶絶モノのかわいさ。鈴木香里武さんの動画を引用しておきます。(自分で撮ったのもあるけど画質が悪かった)


www.youtube.com

交接腕はぽってりと肥大している。特に小さいイカの場合、吸盤の観察は火を通した方が圧倒的に見やすいのでここではこの程度で。

左が交接腕(左第Ⅰ腕)、右が通常椀(右第Ⅰ腕)

解剖した部位を並べてみた。前にTV出演した際に「こういう」画が欲しいんですよと言われたのを思い出してなんとなく撮影したが、記念写真っぽくていいかもしれない。

味見と同定

ミミイカは関東ではあまり見かけないが、瀬戸内海や九州北部では比較的知られた食材だと聞いたことがある。聞いただけだけど。売っているのを見かけたことはいまのところないので、寒い時期にそちらの方面へ出かけたら鮮魚店をよく調べてみようと思う。

食べる前にまずは観察。
これが交接腕。他の腕のような丸い吸盤はなく、その代わり両サイドに乳状突起があって真ん中が溝っぽくなっている。この腕でさっき見た精莢をメスに渡すわけだ。まだミミイカの交接を生でみたことがないけれども結構激しい感じだと聞く。

交接腕

メスの回で書いた通り、ミミイカにはニヨリミミイカという近縁種がいる。どちらなのかぱっと見ではわからないほど似ているのだが、ヒレと吸盤の様子で区別ができるという。下記はニヨリミミイカの説明。

(ニヨリミミイカは)ミミイカE. morseiに極めて良く似ているが,次の諸点で種別される.
(1)ミミイカでは腕4列吸盤のうち,腹側列のみが拡大する,特にII~IV腕では第3~4吸盤からその特徴が明らか.しかし本種では背・腹列とも拡大し,第III腕は5~8番目の吸盤から,II・IV腕は2~4番目の吸盤から拡大が起る.
(2)触腕の吸盤は両種とも極めて密であるがミミイカでは球型ないし円筒型であるが,本種では酒盃或いはマドロスパイプ型である.
(3)鰭の腹側に色素胞がある(ミミイカでは欠く).

引用元:奥谷喬司. 新編 世界イカ類図鑑 新装版. 東海大学出版部, 2015, p.63

(3)ヒレについては前回メスの時にも観察したように、腹側には色素胞がなかったのでミミイカの特徴と一致する。

(1)についてはまずはスケッチを見たほうが分かりやすい(引用元:奥谷喬司. 新編 世界イカ類図鑑 新装版. 東海大学出版部, 2015)。

1枚目がミミイカの腕、2枚目がニヨリミミイカの腕。

ミミイカの腕

ニヨリミミイカの腕

これを踏まえてこの個体の写真を見るとミミイカでよさそうなことが分かるだろう。メモによるとちゃんと一列ずつ吸盤を観察しているので間違いないと思う。

腹側の吸盤だけが拡大している

(2)の触腕の吸盤については小さすぎて確認ができなかった。でも3つ中2つの特徴が一致したのでこいつはミミイカということにしてやってほしい。

味はというと、内臓を抜いてしまったからか、茹ですぎたからなのか味があまりなかった。イカの風味。

反省点

せっかく同定に時間をかけたのに、肝心の写真がイマイチであった。 次があれば、図鑑に載せても恥ずかしくないようなはっきりと差が分かる写真を撮りたい。

参考