佐野まいけるのイカ解剖ログ

趣味で解剖したイカの記録を載せていきます。

ミミイカ_メス_成熟度3a_EM-210419-001

基本情報

標準和名:ミミイカ
学名:Euprymna morsei(Verrill,1881)
雌雄:メス
成熟度:3a
体重:5.0g
体長:4.5cm

ID:EM-210419-001
解剖日:2021/4/19
入手日:2021/4/10
入手方法:採集
産地:関東
状態:

解剖雑記

2年前に捕まえてきて、飼っていたミミイカ。「飼っていた」というにはかなりお粗末な設備で本当に申し訳なかったのだが、なんとか10日間だけ生きてくれた。明るいと全く砂から出てきてくれないため夕方からは新聞紙をかけて飼育していたのだが、だんだんイカを飼っているのか新聞紙を飼っているのかよくわからなくなっていた。それはさておき。

生前のミミイカ

全部で3匹飼っていたうちの2匹を解剖したので、今回はそのうちメスの解剖を振り返る。例によってブログにおこすまで時が経ちすぎているので当時のメモが頼りである。 当時はライトもつけずに撮影していたため写真が著しく暗く、加工に苦労した。それでも何とかこのイカの美しさを伝えたいと思う。

全体

生きているときは黒っぽい体色だったが、ほぼ真っ白に。生きていても弱ってくると白くなる傾向にあった。
外套膜後端がコロッと丸くて可愛いね。透けていてわかりにくいが、ミッキーマウスのようなヒレが「ミミイカ」という名前の由来だろう。

横から見ると丸さがよくわかる。タコの子どもと間違う人もいるとかいないとか。

体の後ろの方の黄色いのは熟した卵。つまりメス。

色素胞・反射細胞

このオーロラのような輝きは色素胞よりさらに下の層にある反射細胞というものによるらしい。生きているときは特にこの煌めきが鮮やかで見とれてしまった。

色素胞は黄色と茶紫の2色がはっきり見える。ツツイカ目やコウイカ目とちがって、外套膜と頭が一部繋がっているのが特徴。眼球の緑が透けて見えるが、それはまた後ほど。

ヒレ

胴の左右に出ている丸っこいペラペラがヒレ。これをパタパタさせながら泳ぐ様が本当にかわいい。
ヒレを拡大して撮影したのには理由がある。実はミミイカにはニヨリミミイカという近縁種がおり、見た目もそっくり、生息域もかぶっているということで見分けるのが非常に困難なのだが、2種の相違点の一つとして、「ヒレの腹側に色素胞があるか」というのがある。
これは腹側から撮った写真で、見る限り色素胞はないように見える(見えてるのは全部背側のが透けてる)ので、おそらくミミイカだろうとこの時点でなんとなく同定。他にも腕の吸盤の特徴によって分けられるのだが、それは次回のオスの方で詳しく書こうと思う。なぜならメスは腕の写真が撮れてなかったから。当時、死んでいたのを見つけてすぐ解剖を始めて、それが始業前だったもんだから随分慌てていたのだ。

開腹

いつもの万歳ポーズ。

小さな体に内臓モリモリ。ほとんど卵のようだ。エラが見当たらないけどどうしたの(この後も見つかりません)。あったはずなんだけど、メモにも記載なし、写真では判別できず。ちゃんとオスの方には記録があったので、写真はそちらで。

漏斗

漏斗が体の大きさに対して長く感じた。気のせいかな。

漏斗軟骨器・外套軟骨器

私が楽しみにしているイカの凹凸スナップボタン部分。
非常に見づらいけどI型だ(画像を加工する元気なし)。

漏斗軟骨器(凹)

外套軟骨器(凸)

謎の部位・生殖腺

写真の下の方の黄色い部分が卵巣、その上の薄桃色の物体が包卵腺。その上の肌色っぽいのは何だろう。

これ何だろうね。

プリプリの包卵腺。卵を包むゼリーを出すところ。

卵。色的に多分熟卵ではないかと思う。

墨汁嚢・発光器

さてミミイカと言えば発光器を見てみたいところ。
イカの光り方は色々あるけれども、ミミイカの場合は墨汁嚢に寄り添ってついている袋に発光バクテリアを住まわせる方式を取っている。食用で有名なケンサキイカも同じ発光方式である。

黒い部分が墨汁嚢で、つやっと光っているのが発光バクテリアを飼っている袋の上に載っているレンズ。この写真はイカの腹側から撮っているので、腹側から レンズ、墨汁嚢、バクテリアの袋、という順番になっている。なぜこの位置にバクテリアを飼っているか。発光したくないときがあるからだ。光る必要のないときはレンズとバクテリアの袋の間を墨で満たして、光が漏れないようにしてしまうそうだ。すごい。下図はイカはしゃべるし、空も飛ぶ〈新装版〉 面白いイカ学入門 (ブルーバックス)より引用。

引用元:奥谷喬司. イカはしゃべるし、空も飛ぶ 新装版. 講談社, 2009, p.96

発光バクテリアが入っている袋を見てやろうと突きまわしていたらこんなになってしまった。無念。ちなみにミミイカと共生している発光バクテリアの種類は「プシウドモナス・ユウプリムナ」だそうだ。一生覚えられない。

眼球

眼球は美しさを堪能して欲しい。 背側は鮮やかなエメラルドグリーンのラメが散りばめられていて、腹側はきめ細やかな質感のメタリック色。ほおばりたい。水晶体もプルっと可愛らしい。

カラストンビ

カラストンビは取り出しに失敗して割れてしまった。やはり鮮度が良すぎると肉離れが悪いようだ。

平衡石

ミミイカは体が小さいので平衡石採取は難しいかと思われたが、執念で一つだけGETできた。

緑のマル印の中に平衡石が見える

拡大したのがこれ。

ピンセットの先についているゴミみたいな白い点が平衡石である。0.6mmくらいしかなかったので骨が折れた。

反省点

  • 早朝に解剖してはいけない
  • いつでも解剖できるよう、道具を整頓しておく
  • 写真を撮るときはよく水分を取り除くか、浸してしまうかどちらかにする。

今回も反省点が多かったが、さすがに2年前の反省点なので現在はすべてクリアしている。成長したな。イカの解剖で成長したからなんなのかという話ではあるが。次回はミミイカのオスの解剖。お楽しみに。

参考