基本情報
標準和名:カミナリイカ 学名:Sepia lycidas 雌雄:オス 成熟度:2a 体重:380gくらい(記録漏れ) 外套背長:17.5cm
ID:SLG-210207-001 解剖日:2021/2/7 入手日:2020/11/15 入手方法:釣り 産地:富山県 状態:冷凍
解剖雑記
昨年富山で釣ったカミナリイカを大事に冷凍していたのだが、いよいよ解剖することにした。カミナリイカを釣ったのは初めてだったし、近所の市場では見かけないので私にとって貴重な一匹。このところ精神の調子が悪いので元気を出そうと、とっておきを解凍したというわけだ。しかしこの判断が誤っていたことがすぐにわかってくる。
袋に入れて計量したのだが、この時メモを取らずにスケールの表示をカメラで撮ったのがいけなかった。押したつもりのシャッターが切れておらず、正確な体重が不明となった。右触腕は触腕嚢に完璧に収まっていて、ズルっと取り出すのが爽快だったんだけれど、ここで触腕嚢の写真を撮り忘れるという第2のミス。
そのうえ開いたら大惨事。これでもかなり墨をふき取った方である。アオリイカとコウイカ系はこれが嫌なんだ。墨袋を破らなくても自然に漏れた墨でこうなってしまう。気分を上げるどころかマイナスに振れてしまった。墨ごと君を愛せる度量がまだないんだ。ごめんな。墨の生臭さには興奮するが、内臓がよく見えないので悲しいのだ。
むちむちでセクシーな第Ⅳ腕を見て気を取り直す。コウイカ系の第Ⅳ腕の艶めかしさの前ではグラビアアイドルも霞む。
墨袋を外すと墨で汚れていない内臓たちが見えてきた。よしよし。それにしてもこれオス?メス?外套膜後端の内臓は精巣っぽいからオスかな。イカチチらしきものもないし。
エラ心臓の根元あたりに青い血液の塊がみえた。このふくらみは何だろう。まだ完全に解凍されていないから水分が凍って膨張したせいでこんな塊になっているのかな。吸い込まれそうな青だ。自分の瞳の色を自由に選べるなら、この色にする。写真右の白い塊は精莢関連複合体と思われる。
反対側の心臓とエラ心臓の間にも青い血液の塊があった。ここだけ血管が太くなっているのか?
精莢関連複合体と精巣を取り出したところ。うっっすら輸精管が見えるので、成熟度は2aといったところか。(参考にしている成熟指標については別途まとめようと思う)
オスということは交接腕があるはずだ。ここで気づいた。カミナリイカの交接腕ってどれよ。私としたことが解剖前に調べるのを忘れていた。交接腕loverとしてあるまじき失態である。新編 世界イカ類図鑑やネット上を慌てて検索したが、ちょっと探したくらいでは見つからなかった。
一本ずつ腕先を確認してもイカのサイズが小さすぎてよく分からない。しかし第Ⅰ腕の様子がおかしい。右(写真下)のほうが左(写真上)より明確に短い。これは手掛かりになりそうだ。というのも交接腕はだいたい反対の腕より短いことが多いのである。では右第Ⅰ腕がカミナリイカの交接腕なのか?腕の先端から交接腕らしさは見て取れないが・・・。
解剖がすべて終わってから友人から情報が来た。『GUIDE TO THE CEPHALOPODS OF TAIWAN』p.150によると、カミナリイカの交接腕は左第Ⅳ腕とのこと。嘘だろ、全然違うじゃないの。というかすべての腕の先を確認したが、全部先端に吸盤があったような気がする。もう一度確かめようと写真を見たら、第Ⅰ腕以外のアップの写真を撮ってなかった。なんてことだ。右第Ⅰ腕が短かった理由も謎のままだ。
お楽しみの平衡石取り出しにもケチがついた。右側の平衡石が取れなかったのである。頭を半割にしたときに右側の平衡胞がすでに開いていたから、その時にこぼれたのだと思う。正中を切ったつもりだったが右に寄っていたようだ。そもそもメスで切るべきところをなぜかハサミでえいやとやっており、完全に血迷っている。先日解剖したアオリイカの平衡石の半分くらいのサイズだったし、という言い訳もあるが残念なことだ。
反省点
・計測値は写真だけでなくメモにも残す ・しつこいくらい写真を撮る(撮るべき写真をチェックリストにする) ・頭軟骨を半分に割るときは正中を正確にメスで ・初めての種類を解剖するときは事前に交接腕を調べておく ・釣ったイカ(墨袋大きい系)は墨袋の出口をクリップしておく(後述) ・疲れているとき(精神も含め)に解剖しない
なんとも反省の多い解剖になってしまった。こうなったらカミナリイカを釣りまくっている上司に釣りに連れて行ってもらって、リベンジするしかない。
墨袋の出口をクリップするというのはやったことがないのだが、釣り系youtubeを見ているといくつか動画が出てくる。釣り上げたばかりの生きたアオリイカの墨袋の出口を、結束バンドで止めてしまうというものである。めちゃくちゃやってみたい。
慣れない種類の解剖が続いたので、そろそろ慣れ親しんだスルメイカを解剖したい。